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デジタル人材育成セミナー#5 ~島根県江津市の「ITパスポート試験」全職員合格を目指す取り組み~

江津市の「ITパスポート試験」全職員合格を目指す取り組み

2024年10月10日に開催されたDi-Lite主催の「デジタル人材育成セミナー」第5回では、島根県江津市政策企画課デジタル推進係長の津村健太氏を迎えて、江津市におけるITパスポート試験全職員合格を目指す取り組みについてご紹介いただいた。

江津市の概要

島根県の中央に位置し人口約2万1000人の江津市は、県内で最も小さい市です。伝統産業である「石州瓦」による美しい町並みが特徴的で、昭和29年に市制を施行し、平成の大合併で桜江町と合併しました。今年で市制70周年、合併20周年を迎え、市役所には258名の職員が在籍しています。

津村氏自身は、江津市政策企画課でデジタル推進を担当しており、現在進めているDXの推進や、地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化対応に注力しています。また、総務省の「自治体フロントヤード改革モデルプロジェクト」にも取り組んでおり、さまざまな改革プロジェクトを同時に進行しています。

ITパスポート全職員合格の取り組みをするに至った経緯

講演の中で津村氏は、DX推進のための人材育成の重要性についても強調しました。2020年に総務省が策定した「自治体DX推進計画」では、自治体がデジタル化を推進するための組織体制やデジタル人材の確保・育成が主要なテーマとして掲げられています。この計画に基づき、江津市ではDX推進を進めるために、市職員のデジタルリテラシー向上が不可欠であると判断しました。

さらに、少子高齢化が進む社会では、業務効率化や省力化が急務です。そのためには、職員がデジタルツールを活用できるスキルを持ち、業務の生産性を向上させることが求められています。2023年には、総務省がこの方針を改定し、デジタル人材育成の重要性をさらに強調しました。

江津市のDXに対する独自のアプローチ

津村氏は、江津市でのDX推進の独自の位置づけにも触れました。江津市では、「DX」を「できることから(D)、行動変革(X)」、「できないは(D)、だめ(X=バツ)」と再定義し、単なるデジタル化ではなく、組織全体での行動変革を強調しています。デジタル技術はあくまで手段であり、最終目標は行政業務や市民サービスの質の向上であると語りました。

スマートシティ江津推進構想とITパスポート試験

江津市では、2022年度から「第6次行財政改革」の一環として「スマートシティ江津推進構想」を進めています。構想の目標は、デジタル技術を活用し、市民サービスの向上、業務効率化を図ることです。そのためには、職員のITスキル向上が重要であると考え、江津市は全職員にITパスポート試験の受験を推奨しています。

ITパスポート試験を選択した理由

ITパスポート試験を選択した理由として、津村氏はこの試験が国家試験であること、さらにITの基礎知識を問う内容であるため、非IT職員でも取り組みやすい点を挙げました。また、試験の実施により職員全体のデジタルスキルの底上げが期待でき、組織全体のDX推進の基盤が整うことが狙いです​​。

全職員合格を目標とした理由

全職員合格を目標とした理由について、津村氏は、デジタル技術への理解が特定部署に限定されず全庁的に広がることが重要だと述べました。職員全員に受験を義務づけることで、DX推進が他人事ではなく組織全体の意識として浸透しやすくなり、目標が達成されることで組織の連帯感と責任感が醸成されると考えられています​。

学習会の取り組みと目的

江津市では、ITパスポート試験合格を目指す職員を支援するため、毎年5月から7月にかけて学習会を開催しています。この学習会は、第2・第4火曜日の定時後に1時間半程度行われ、毎回10〜30名の職員が参加しています。学習会の特徴は、職員同士が講師となり、参考書を使って試験内容を解説する形式です。

この学習会の狙いは、試験学習をサポートするだけでなく、職員間でのモチベーション向上や、受験に関する悩みを共有・相談する場としても機能させることにあります。職員が互いに支え合い、デジタルスキルを高め合う環境づくりが、この取り組みの重要な要素となっています。

また、地方公共団体情報システム機構が提供するeラーニングも利用されており、職員が自分のペースで学習できる環境が整備されています。

定期的な情報発信とリーダーシップの可視化

江津市では「ITパスポート通信」を通じて、全職員が受験に向けて必要な情報を定期的に発信しています。この通信には、試験合格者の声や学習のポイント、過去問の要約が掲載され、職員が学習に集中できるようにサポートしています。さらに、最新号の「ITパスポート通信」では、市長と副市長が一緒にITパスポート試験に申し込む様子が紹介されています。トップ層が自ら試験に挑戦することで、DX推進への積極的な姿勢を示し、職員の士気を大きく高めています。こうしたリーダーシップの具体的な行動は「ITパスポート通信」を通じて全庁に広がり、職員のモチベーションを一層高める力になっています。

2年目の課題と「3対4対3の法則」に基づくアプローチ

津村氏は、取り組み開始から1年目には20名の職員がITパスポート試験に合格したものの、2年目には学習会の参加者が減少し、合格者も伸び悩んでいる現状を課題として挙げました。この状況に対処するため、津村氏は「3対4対3の法則」に着目していると説明しました。

この法則によると、職員の3割は意欲的で、4割は普通の意欲を持ち、残りの3割は意欲が低いという構図があると言います。まずは意欲的な3割の職員に焦点を当て、彼らの合格を目指すことが、残りの職員にも良い影響を与え、最終的に全体の合格者を増やすというアプローチが取られています。この段階的なアプローチは、全庁的にデジタルスキルを高めるための戦略的な施策です。

また、「DX大賞」という表彰制度を設け、2023年度はITパスポート試験合格者全員を表彰しました。加えて、合格者にはiパスシールを配布し、名札に貼ってもらうことで合格者を可視化し、職員全体で合格を目指す機運を醸成しています。

今後の展望とITパスポート試験の効果

今後、津村氏は、全職員のITパスポート試験合格を目指しながら、職員のデジタルリテラシー向上を進めていく計画を示しました。特に、ITパスポート試験を通じて得られる基礎的なIT知識は、職員が市民に対してデジタル技術を活用した提案やサービスを提供する際に大いに役立つと期待されています。今後も全職員の受験を支援し、2026年度末までに全員合格を目指す取り組みが進められます。

編集後記

江津市のITパスポート試験全職員合格に向けた取り組みは、単なるスキル習得に留まらず、組織全体のデジタルリテラシー向上と、自治体としてのDX推進を目指した大きな変革を見据えています。津村氏の講演では、取り組みの背景や進捗、課題についても率直に触れられ、変革を進める上での挑戦が伝わりました。特に象徴的なのは、市長と副市長も自ら試験に申し込み、全職員に率先してデジタルスキルの習得に挑戦している点です。この行動は、全庁的なDX推進におけるリーダーシップの重要性を示し、職員の意欲をさらに引き出すメッセージ性の強い取り組みと言えるでしょう。今後、江津市がスマートシティとして発展する中で、他の自治体へのモデルケースとなることが期待されます。

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